1 脱着  

  排気管やら何やらを外して最後にエンジンをフレームから外すときの段取りです。
 後のシリンダの固定を外した後、前のシリンダの固定を外してエンジン後方のマウントを軸に回転(スイング)させて前のほうから先に着地するような形にして、後方のマウントのボルトを抜いて外しています。
 このとき、前のフェンダとエンジンの間にコンパネを入れています。前に前バンクの上のブラケットがフェンダに当たって凹ませてしまいましたので、こうやってます。

  エンジンを支えるためにクルマ用のパンタジャッキを使いますが、2台あると微調整が効きます。このときもエンジンの下側にコンパネを挟む(ジャッキとの間に)ようにしてます。エンジンブロックにキズがつかないのと、安定して作業ができるのがよいです。Igコイルはほかの部品とぶつかって×になるリスクが高いと聞きますので、この前の段階で前後分とも取り外してあります。

 

 この状態でエンジンは手前に引き出されているボルトを軸に前に回転している状態です。荷重は主に前の赤いジャッキにかかっています。このままではボルトに荷重が掛かっていて抜きだすのは力技になります。それで、画像左側のジャッキで上にエンジンを押して、ボルトにかかる荷重を抜いてボルトを抜き去ります。

 

 前回りも外れてフレームはこんな感じです。

 フレームまわりの検分です。

  

 このバイクのレクチファイアレギュレータの端子は、錆びてはいますがまったく焼損はみられませんでした。1号のは端子の周囲のホルダが焼けていたのでバラのギボシ端子に交換してありますが、それでも焼けて絶縁カバーが真っ黒に変色してカチカチになっています。一旦焼け始めるとどんどん状態が悪くなる傾向(坂道を転がり落ちるように)があるようです。

 ピボットのカラーはキレイでした。サイドカバーはカチンカチンで要交換でした。

 

 リアバンクの頂上あたりについてるナットですが、こんな風に前後に5ミリ程度可動になっています。ここが後過ぎる状態でエンジンをのせようとすると、前バンクの上の金具とフレームを固定するボルトが通らなくなってしまいます(エンジンが乗りません)。


2 ヘッドまわり

 XVのシリンダヘッドは、車載のままでカムシャフト、ロッカーアームの整備ができます。
 カムホルダがとても大きいので、抜いてしまうとロッカーアームを外すのはいともカンタンです。 

  正直なところ、今回も最初から全バラありきではなく、ヘッド回りにまず手を入れて様子を見るのが適切であったと強く思っています。

 ロッカーアームシャフトは、内側にM8のネジが切ってあって、ここにプーラーになるものをひっかけて引きずり出すようになっています(SSTあり)。手持ちのオートバイ用の細目のネジで抜けましたが、かみ合わせがもう一つよくないので、もしかしたら違うネジかもしれません。今回はロッカーアームともども交換なので気楽(結果的に)ですが、本当はどうなのか、気になります。最初、常温で作業したらぜんぜん動かなかったのでアラジンであぶって手で持てないくらいの温度(70度くらい?)に温めるとスルスルと抜けてくれました。

3 なぜカムにダメージが?

 そないに距離を走っているエンジンでもないのになぜカムやロッカーアームのスリッパ面がガシガシに摩耗するのでしょうか。

バルブの頭も定番のえぐれができてました。

 

  オイルポンプのせいではないかと勘繰っているのですが、ロータープーラーが外れず、オイルポンプ自体はチェックできていません。駆動用のチェーン(自転車のの半分くらいの太さ)はダランダランに伸びている(遊びが出ている)状態で不安を誘います。

 原因はともかく、今回はカム、ロッカーアーム、同シャフト、バルブクリアランスアジャストボルト、バルブまで全損コースでした。

 と、思っていたのですが、相談した内燃機屋さんは、「バルブはまだまだ使える。ステムエンドのえぐれは研磨してOk」との見立てて、もちろんその路線でお願いしました(100330)。

4 シリンダ

 前シリンダの前側のスタッドボルトは結構激しく腐食していました。また、シリンダヘッドとシリンダの間のダウエルピンが錆びてシリンダヘッドを外す過程でシリンダが一緒に抜けてきました。まだ外すつもりではなかったのでシリンダの固定ボルトは締まったままだったのでちょっと慌てました。

  なぜかシリンダの内壁にどうみてもサビとしか見えないモノがあります。ナゾです。

 シリンダのスカート部分は厚み3ミリ程度で、3ミリボーリングすると残りは1.5ミリ(片側)。ギリギリ路線ですよね。クリアランスはXVの指定の0.04〜0.06ミリでお願いしました。

5 ピカピカ部品の帰還

 加工をお願いした内燃機屋さんは、実質3日ほどで仕上げていただき、部品を持ち込んだ次の週末に引き取りに伺いました。丁寧に梱包いただいたおかげですごく嵩張っていて、クルマでピックアップに行って正解でした。嵩張った主要因は、シリンダです。上のほうでスカート(という表現でいいのでしょうか?)の厚みが3ミリと書いていますが、内燃機屋さんの測定では2.5ミリということでボーリング後の肉厚は1ミリで限界値ということでした。わざわざ確認のお電話をいただき、「多分大丈夫だろうけど、絶対大丈夫とはいえない領域です」ということでしたが、先例がいくつかあるということでお願いしました。で、あまりに薄いので絶対ぶつけないようにということで、シリンダはとても大きめの箱に入れていただきました。

 ピストンのリセス加工は、XVのピストンの採寸をして加工位置を決めていただきました。

 

  こうしてSRのリセスの位置と比べると、XVの方が両バルブのオフセットは大きいようです。

 シリンダヘッドです。当たり前といえばそうですが、バルブのフェイスの中央に当たり面が位置していて、とてもきれいです。細かい方のコンパウンドで摺り合わせをしたいような気もしますが、摺り合わせもしてもらっていて、あとはエアで吹いたら組める状態でいただいてきました。バルブはステムエンドとコッタのかえりを研磨で落としてもらって再使用です(バルブガイドも合わせてとても節約コースになりました)。

 

6 新しいエンジン

 原案では当然全バラ+ベアリング全部交換方針だったのですが、フライホイールがどうしても外れてくれないのに手をこまねいている間にシーズンインしてしまい、早く走りたくて仕方がないので今回は腰上OHになってしまいました。そのため、腰下はそのまま + SRピストン + バルブ、ガイドは修正 + ロッカーアーム、カムシャフトは新品、というのがおおまかな構成です。

 今回の作業の途中から、掲示板をご覧になったSさんからとても貴重なアドバイスをたくさん頂戴しました。Sさんは80年代車にお詳しく、XVについても経験ご豊富です。XJの気化器の同調についても大事なポイントを教えていただきまして、今日の好調ぶりはSさん様様です。XVについては、「1本約2万円のEのカムシャフトのかわりに、およそ半額で買えるビラーゴ750(55R、1RW)のカムシャフトが使える。 合わせて、ロッカーアームもおなじくビラーゴ750のを使うと異音(カチカチ音)対策になる。実際に組んで好調に仕上がっている」ということです。

1
5
10
42X-12171-00
カムシヤフト 1
10,343
1
あり
 
2
5
11
42X-12181-00
カムシヤフト 2
7,938
1
あり

 厳密に比較すると、ほんのすこしだけカムプロファイルが違うそうですが、「半額」っていいですよね。下の写真の「1」が新しく買った55R用の42X・・・、「2」が5KO用です。表面仕上げが違っていまして、5KO用は軸部分はピカピカですが、55R用は全体に真っ黒ツヤナシの表面保護処理がされています。どちらもバリはそこそありまして、特にカム面の際はきつかったです。気になる箇所はオイルストンを当てておきました。

 55Rの部品を使うということには少し思い当たるフシがありました。今回フレームを使うO号は、前のオーナー(この方がOさんですが)から予備部品にと用意されていた新品のカムシャフトとロッカーアームなどを合わせてお譲りいただいていました。カムシャフトはE用でしたが、ロッカーアームは部品番号が42X・・・で違っていました。そのときは部品の統合かな?くらいに思っていましたが・・・。

 上のほうが55R用、下が5K0用です。

1
4
9
42X-12151-00
ア−ム,バルブロツカ
3,234
4
1
5
9
4X7-12151-00
アーム,バルブロツカ
3,234
4

 こうやって比較してみると、結構カタチが違います。

 カムシャフトのスリッパ面に穴があるのがE用。55Rは、部品番号は同じでしたがOさんにいただいたのと新しく買ったのはちょっとカタチが違います。Oさんにもらったのは、シャフトの通るパイプ状の部分がEと同じような2段になってますが、新しいのは1段です。

 ということで、とりあえず今回は手持ちのスペアも含めて組んでみることにしました。1番バンクは新品コンビ、2番バンクは引き継ぎコンビです。カムが違うこと、Sさんのアドバイス「異音対策はセット交換」に反していて、2番バンクは異音がでそうな気がすることなど「コレで安心」ということよりも、「やってみたらどうなるか?」を優先したチョイスです。あと8千円だしたら新しいカムが買えるので一時はそうしようかとも思いましたが、ココでやらなかったらずっと気になるような気がして、こういうことにしました。もし具合が悪ければエンジンが車載状態のままで作業ができることがはっきりしたことも一因です。

7 組立準備

  カムシャフトは鋳物を加工して作ってあるようで、エッジがギザギザなのでオイルストンで面取りをしました。ピストンとリングもさらっと面取りをしました。リングの内側はキンキンにエッジが立ってました。

8 組立編

 これだけで4万円とすこし。ピストンや加工も含めて10万円までで収まりそうです。

 これまでは部品の山から工程ごとに必要な部品を探し出して組み付けていたのですが、今回はあらかじめ工程ごとに部品を分けて、員数もカウントすることにしました。プラモデル作りの要領です。まだ整理中ですが、やりかけると足りない部品があることがたくさん分かってきました。

 それと今回は、、マニュアルとPカタログの当該ページをコピーしておくことにしました。作業メモ代わりと汚れ対策です。が、マニュアルを真剣に見てみると誤記が結構あります。クランクケースカバーの固定ボルトの説明図も間違ってました。この前SRXのエンジンを組んだときに、本来よりも短いボルトを入れて組みそうになってから、パーツカタログでボルト長を確認しています。今回はPカタログを見なくていいしベンリ〜と思ったら、・・・間違ってました。 きっとみんな忙しかったんでしょう。

 ともかく、組む時はキレイな部品が相手なので、油まみれの部品をバラしたりガスケットのカスを掃除したりするのに比べるとスイスイ作業が進みます。

 ボーリングの結果、スカート部のテーパー部分がほとんどなくなってしまっています。ボーリング屋さんの「ギリギリですよ〜」というコメントが思い出されます。SRのピストンは、オイルリングのエキスパンダの張りが強くて結構手間取りました。

 こうしてみると、ヘッドガスケットが収まる円周状の溝の内側とピストンを隔てる部分は本当にギリギリなのがよく分かります。

 バルブはきちんと中央に当たり面が出ていて、眺めていると本当に気持ちがいいです。コッタの部分のバリもきれいになっています。

 カムホルダを外すとこんなに大きな開口ができます。ロッカーアームはここから入ります。調整窓からは入りませんでした。

 こういうのを見てるとバラしてよかったとつくづく思います。それにしてもボーリング屋さんには、燃焼室もホントにキレイにしていただきまして大変感謝してます。排気管を固定するスタッドボルトは4本とも新品に交換しました。よく見ると曲がっていたりネジ山が損傷していたり、まったく無傷に見えるのは4本のうちの1本だけでした。

 アストロさんのバルブスプリングコンプレッサキットです。仕上げはちょっと荒いです。付属のアタッチメントがXVには小さすぎて、気をつけていないと斜めになって外れてしまいます。が、あるとないとは大違いです。

 ピストンを組んでシリンダを押し込み、ヘッドを載せたらできあがりました。やや気になるのは、クランクシャフト(正確には左端のボルト)にレンチを掛けて回したときの引きずりトルクが結構大きいような気がすること。重くなったり軽くなったりするのですが、最も重いところでトルクレンチで測ったら1.6キロくらいです。様子を見に来られたMさんから、「4気筒の某車で目安が3キロらしい」というお話を伺って、この件については納得することにしました。

 作業効率から台のうえに持ち上げたのは◎でしたが、奥行きがせまく、回転させる際には神経を使います。また持ち上げたときは腰下だけだったところへ、シリンダとヘッドを組んだので一人で安全に降ろす自信がなく、息子Aに手伝ってもらいました

。下手をすると一生傷マターのため、「イザとなったら下に落とせばいいが、そのときは脚を後にひくなり自分の体第一で作業をすること、どうしたい、どうしてほしいか、かならず言葉に出すこと」などなど入念な打ち合わせをして作業に臨みました。2人がかりということで、とてもスムースに作業をできましたが、できれば力持ちを自覚する方に手伝ってもらった方がよい作業でした。

 

 

 

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